はじめに

トルコはNATO,OECD,OSCEの加盟国として、かつ欧米との協調関係を基軸としています。地政学的にも欧州、中東、中央アジア、コーカサス地域の結節点という重要な要衝に位置しています。人口8,000万人を擁するトルコ国内消費市場に加え、EUや近隣諸国市場への生産拠点として注目が高まっており、消費市場の拡大に伴い販売拠点の設立も相次いでいます。とりわけ、日本企業の進出や現地法人化の動きが活発化しており、業種もこれまでの商社、建設、自動車等の製造業に加えて、金融、食品、医療、人材派遣、コンサル会社、報道・出版など多岐にわたっています。

加えて、日本・トルコ関係は,1890年のエルトゥールル号事件(オスマン提督の軍艦エルトゥールル号が紀州・串本沖で遭難し沈没。乗組員581名が死亡したが日本の官民あげての手厚い救護により69名が救出され、日本の巡洋艦がその後トルコへ送還した事件)以降、歴史的に友好関係にあります。また、1985年3月、イラク・イラン戦争の最中、テヘランで孤立した邦人を救出するためにトルコ政府がトルコ航空の特別機を派遣し救出した出来事も「海の恩を空で返す」という両国双方の友好関係の象徴的出来事となりました。2015年には両国政府支援による日トルコ合作映画「海難1890」が制作され、両国で公開されました。

トルコ政府は「イスタンブールは国際企業の地域中核拠点」と強調、一方、日本企業も東欧、中央アジア、中東などへのビジネス展開を視野に入れた「生産・販売拠点のハブ」としてトルコに強い関心を寄せています。またトルコ政府もエネルギーやインフラ分野での日本企業の投資拡大、更に食品やアパレル・繊維、雑貨などの対日輸出拡大に期待を寄せています。

その背景には、日本とトルコ両国間が自由貿易・経済連携協定の締結に向け、両国間で相互に開催し取組んでいる交渉会合があります。これまでも担当大臣はできるだけ早期のFTA締結を訴え、「日本とトルコの企業が協力する環境を整備し、中東や旧ソ連圏で共同投資する可能性を探る」としてきました。2019年11月27日には、トルコ貿易省のゴンジャ・ユルマズ・バトゥル副大臣一行が来日、経団連の日本トルコ経済委員会とも懇談会を開催しています。

2018年の日・トルコ間の貿易高は46億ドルに上り、近年上昇傾向にあります。他方、トルコの対日輸出額は日本の対トルコ輸出額の約8分の1にすぎず、以前から貿易不均衡が指摘されてきました。バランスの取れた持続可能な二国間貿易関係を築いていくためには、トルコから日本への輸出品目の構成を多角化することも重要です。

日本企業はトルコに進出してすでに50年以上の実績があり、現在248社を数える日本企業がトルコに投資し、2002年以降の対トルコ投資額は累積29億ドルに達しています。そのうち、20億ドルはここ6年間に投下された資本で、日本が世界で行っている年間1500億ドル以上という対外直接投資額に鑑みれば、大きな額とはいえませんが、見方を換えれば、トルコへの投資のポテンシャルは大きく、さらなるプロジェクト投資への窓が開かれているといえます。

EPA交渉において、鉱工業品と農林水産品の市場アクセスについて、両国政府間のリクエスト・アンド・オファーには依然として隔たりがあり、今後の協議を通じて埋めるべきとも指摘されています。また、原産地規則についてもすでに発効済みの日EU EPAと整合性の取れた仕組みとすることが望まれます。今後、集中的に交渉が行われ早いタイミングでの締結が待たれる所以です。FTAで関税が撤廃されれば、価格競争力が高まることが期待され、貿易・投資両分野においてトルコと日本は、まさにこれからが「本番」と言えます。

日本と貿易・投資促進に大きく貢献し、EPA提携に道筋をつけた前チャーラヤン経済大臣

バトンを引き継いだ前ニハト・ゼイベクジ大臣

ルフサル・ペキジャン 貿易大臣